小  説

81-7 雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編 第二話 雪景色(その7)

 綾華の部屋を出ると、槙人は自室に戻った。そのまま、何となく窓に寄る。
 雪は、飽きもせず降り続いていた。

「兄妹・・・だよな・・・」

 無数に降りてくる雪をぼんやりと眺めながら、槙人はそっと呟いた。
 まっちーこと町田の言葉が思い起こされる。
 憧れ。本当にそうだろうか。
 綾華の態度は、本当にそれだけなのだろうか。
 それとも、それは本当で、そう思うのは、槙人自身の期待なのだろうか。
 綾華は可愛い。策略家なところはあるが、女の子としてみるなら、かなり理
想に近いだろう。そういう意味では、彼女にしたい女の子は、と訊かれれば、
理想に近いだろう。
 まず真っ先に思い浮かぶ。
 そんな女の子に、自分を好きになってほしいと思うのは当然ではないだろう
か。
 だからかもしれない。こんなにも気になるのは。
 綾華が自分をどう思っているのか。

「・・・アホか、俺は」

 いや、アホだな、と槙人は訂正した。
 綾華は妹だ。それを強調する。
 七年間会わずにいたので、綾華は年頃になってしまった。しかも、相当に可
愛く成長して。 血のつながりがない事を、否が応にでも知らしめられる。
 その状況をまた受け入れられないから、そう考えてしまうのだろう。
 いずれ落ち着くところに落ち着く筈だ。頭を悩ますことなどないのだ。
 槙人は深く息を吐いた。
 そっ、それは本当に。
 
 しかしそれは、本当に。
 槙人は窓を開けると深呼吸した。冷たい空気で肺を満たす。それだけで頭が
冷える気がした。
 思い切り息を吐くと、視界が白くなった。そして、息が空気の中へ溶け込ん
でゆく。その後も視界は白かった。
 雪は降り続く。初雪といえど遠慮はない。冬が近づくにつれて降雪量が増え
る普通の自然現象とは違う。初夏、突如大量に降った後、積雪量はほとんど変
わらぬまま、残暑が過ぎてから忽然と止む。雪が降ったことなど、嘘だったか
のように。
 それは、本当に。
 その時は、本当に−−。
 槙人はもう一度深呼吸すると、窓を閉めた。

「えーい、メシだ、メシ!」

 これ以上考えないようにしようと、わざと声を出した。
 部屋のドアを開け、一階へ降りる。大して空腹ではないが、早めに食べる事
にした。
 しかし、それでも。
 時間の中に現れる変化に、人は抗う事はできない。
 その時は、本当に。
 自分は正しかったと、思えるのだろうか。
 この迷いを、捨てきる事はできるのだろうか。
 綾華の笑顔が思い出される。
 それは、本当に---。
 単に槙人の思い過ごしなのだろうか。それとも。
 そしていつか明らかになるそれは、その時と、同じものなのだろうか。変わ
ってしまっているのだろうか。あるいは、不変という名の変化を起こしたものなのだろうか。
 その時二人は、どうなっているのか。

「・・・・」

 答えなど分かる筈がなかった。
 

 その日の雪は、一日中降り続いていた。

まだまだ続くぜ!!


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