先月、「ヒトガタの想い」全六話のアップが完了しました。
次の作品に取りかかる前に、この「ヒトガタの想い」の番外編ともいうべき「ヒトガタの想い・外伝 ~貴女を求めて」をアップしました。
夜風が耳を通り抜けてゆく。死体だけが残された地上で、永琳はぼんやりと月を見上げ ていた。夜空を照らし、銀の満月が永琳に光を浴びせる。顔も服も血まみれになって、永 琳は月夜の中にたたずんでいた。 「私は……何を失ったのかしらね……」 ぽつりと永琳は呟く。イルルナーダの言ったことを、永琳は理解できなかったわけでは ない。しかし永琳にとって、永遠の命を手に入れることは必ずしも生命を捨てることには つながらないのだ。 もし確実に失ったものがあるとすれば、それは月の生活。しかし、今はそんなものに興 味はない。輝夜と共にいることこそが永琳の望みであり、そう考えればむしろ輝夜のいな かった月の生活など捨てたほうがよいものだった。 しかし、この胸にある虚無感はなんなのだろうか。永琳にとって決して多くはない死体。 おそらくこれのせいではない。命を失ったわけでもないし、かつての生活は失っても悲し くはない。だが、永琳は確かに空虚さを感じていた。