小  説

34-燃え上がれ恋色マジック 第4話

「なっ……!!」

 絶句という言葉がまさしく当てはまっていた。誰もが、それぞれの理由において、声を
出すことができなかった。

「フランドール様が出てこられたので……どうか『迎撃』の準備を……」

 息を切らせてメイドがもう1度用件を伝える。緊急事態とはいえ、今の今までここにあ
った甘ったるい空気を完全に壊してしまったことについては気づいていないようだった。

 場が白けるという言葉がある。興がさめるという意味だ。しかし、今この瞬間において
は、白けるなどというレベルではなかった。感情は狂おしいほどに高ぶっていたというの
に、その天下をも見下ろせるような高さはあっという間に谷底へ転落し、その果てを穿ち、
水が湧き出てもなおとどまらぬほどに深く深く落ち込んでいったのだった。
 そのメイドがパチュリーの視界にいなかったら、隠れていた咲夜に即座に殺されていた
ことだったろう。

 時の止まった図書館。その中で初めて動いたのはパチュリーだった。先ほどまでの狼狽
は欠片も見えず、無表情に、ゆらりと椅子から立ち上がった。

「はあ……。妹様も全く……」

 ため息を1つ。心配なくらいに良かった頬の血色はもはや消え失せていた。そこにいた
のはいつもの、知識と日陰にうずもれている大魔法使いだった。

「魔理沙、悪いけど手伝ってくれる?」

 至極面倒臭そうに、パチュリーは魔理沙のほうに向き直って訊いた。フランドールが頻
繁に外に出たがるようになったのは元はといえば魔理沙のせいなのだから、魔理沙も承諾
せざるを得ない。苦笑いをして、魔理沙はうなずいた。
 決して、メイドが雰囲気を壊してしまったからとか、その原因がフランドールであるか
らだとか、そういうわけではないのは明白だった。本以外のことになるととにかく切り替
えの悪いパチュリーのことだ。魔理沙と肩を並べて歩いているだけでも心の中は釣り上げ
られた魚のように跳ね回っていることだろう。先ほどまでの緊張が残っていないわけがな
いのだ。
 それでもパチュリーが冷静になってしまったのは、きっともう前進したくないから。
 いくら魔理沙に魔法がかけられていたからといって、パチュリーにとっては非常に大胆
な行為だったのだ。たかがキスといえるかもしれない。だが、こんなにも他人を追いたく
なるような感情を持ったのは初めてなのだ。パチュリーの相手は本だけだった。たまに友
人のレミリアがいて、たまに部下の小悪魔がいる程度だった。友達以上の誰かを見たこと
がなかった。
 パチュリーを見ていれば、その気持ちが分かる。
 まだ踏み込んではいけないところに踏み込んでしまったのだと。
 小悪魔たちからすれば何を今更と感じてしまうのだが、パチュリーはそれを認めたがら
ない。例え認めるとしても、これほど一気に距離が縮まるのが怖いのだ。
 だから、戻った。3歩進んで2歩下がるように。
 少しずつ歩いていければいい。そう思っているのだろう。

「……私たちも行ったほうがいいわね」
「あ、そうですね」

 パチュリーと魔理沙が見えなくなってから、思い出したように咲夜が口を開いた。フラ
ンドールの「お散歩」は、館のほぼ全員の力をもって終息する。その主戦力が咲夜とパチ
ュリーだ。今はそれに美鈴と魔理沙も加わることになる。小悪魔も手伝うことになり、3
人はパチュリーたちの後を追った。

「それにしても、さっきのはちょっとやばかったんじゃない?」

 図書館を出るとき、美鈴が小悪魔にたずねた。
 
「いえ、まだ全然大丈夫でしたけど」

 確かに、パチュリーの気持ちを考えると少しやりすぎのような気がした。しかし、本来
ならばあの一線くらいは越えておいてしかるべきものだし、雰囲気からすれば絶対に成功
していたはずなのだ。フランドールという全く予想外の異分子さえ紛れ込んでこなければ、
2人の距離も今よりずっと縮んでいた。ぐずぐずしていた遅れを取り戻せるはずだったの
だ。

「まあ、フランドール様じゃ仕方ないわね。ほら、2人とも気を入れなさいよ」

 ちょっともったいなかったという気持ちは同じなのだろう。ため息混じりに咲夜が2人
を叱咤した。








 昨年の夏以来、紅魔館の内壁はより一層堅固なものになっていた。ありとあらゆるもの
を破壊する程度の能力を持つフランドールは、地下室から出るたびにいろいろなところを
破壊し回ってくれる。壁や天井に風穴が空くことなど毎度のことなのだ。そのため、咲夜
とパチュリーが共同で壁を強化している。ひび1つ入らないとはいわないが、被害がぐっ
と下がったのは確かだった。
 しかし、それはもともと手加減を知らないフランドールをさらに増長するだけに過ぎな
かった。
 図書館を出た小悪魔たちが見たものは、4人に増えて暴れまくっているフランドールの
姿だった。本人からすればただおもしろおかしく遊んでいるだけなのだが、台風のものさ
しで測られても迷惑なだけだった。フランドールの周囲にはメイドが集まっており、言葉
と弾幕で説得を試みていた。
 無論両方説得には向いていない。フランドールを地下室に戻すには、力よりも技が必要
とされる。しかしその技も、ミスディレクションとなる力が無くては通用しない。紅魔館
のメイドたちはそれを十分心得ており、この状況下においてもフォーメーションを崩すこ
とはほとんどなかった。
 そこへ、魔理沙とパチュリーが入っていった。力と技を絶妙なバランスで絡めなければ
誘導できないフランドールだが、力押しでもそれができるのがこの2人である。

「あー、魔理沙だー!」

 メイドたちに向かって殺人弾幕を放っていたフランドールは、魔理沙を見つけるなりぴ
たりとそれを止め、魔理沙めがけて突進していった。体当たりといったほうが正しい勢い
で魔理沙にダイブする。魔理沙もフランドールを受け止めようとしたが、なにぶん相手は
4人いるのである。個人の体重差なら間違いなく魔理沙のほうが上なのだが、4人がまと
めて、しかも相当の運動エネルギーを保持したまま突っ込んできたらそれはそのまま吹き
飛ばされて当たり前である。5つの金髪団子が、ドップラー効果のかかった声をあげて廊
下を転がっていった。

「魔理沙ー、魔理沙ー」
「いたたた……。こらフラン、ちょっと離れろ」

 横の壁にぶつかって回転が止まると、フランドールは1人に戻った。そのまま魔理沙に
抱きついてすり寄る。魔理沙は上半身だけ起こしてフランドールを離そうとした。
 なんとなく、先ほどの魔理沙とパチュリーの構図に似ていなくもなかった。
 
「うー、何よー。遊びにきたんでしょー?」
「いや、別にフランと遊びに来たわけじゃ……。おーいパチュリー、助けてくれー」

 フランドールが遊べ遊べと魔理沙にひっつく。立ち上がる事もできないので、魔理沙は
パチュリーに助けを求めた。
 しかし、パチュリーは動かない。むすっとした表情で、いつもの皮肉めいた眼差しを魔
理沙に向けていた。

「……いいじゃない、遊んであげたら」

 ぷいっと魔理沙から顔を逸らすと、パチュリーは図書館のほうに歩き出してしまった。
確かに、フランドールの暴動は既に収まっているのだからこれ以上パチュリーがいる必要
はない。パチュリーとしては早く本の続きを読みたいのもあるだろう。
 しかしそれ以上に、フランドールに対する嫉妬と羨望がそうさせているのだ。
 
「お、おいちょっと待て!」
「えー?いーじゃん、遊ぼ遊ぼ」

 普段は館の地上で遊ぶなと言われているのだが、今回に限ってはパチュリーが直々に遊
んでいいと言ってくれたのだ。ここぞとばかりにフランドールは弾幕ごっこを始めようと
する。お互いに距離を取り、魔力を集めていざ。

「いやいやいや。私はパチュリーのところに用があってきたんであってだな……」

 しかしフランドールとの弾幕ごっこは体力も精神力も異常消耗する。わざわざ本を読み
に来たというのにそこまではしたくない。余裕があるときは魔理沙もそれに応じてくれる
のだが、先ほどの事もあったせいか、立ち上がった魔理沙はなんとかフランドールから逃
れようとしている。

「う〜。さっきからパチュリーパチュリー何よ。ここに来たんなら私と遊べー!」

 無茶苦茶な理論である。気が触れているから仕方ないのかもしれないが。フランドール
はばたばたと腕を上下に振る。495年生きてるとはいっても、中身はわがままな子供そ
のものだった。

「ああ分かった分かった、分かったから少し落ち着けって」

 困惑した表情で魔理沙がフランドールの頭を撫でる。
 
「今度しっかり遊んでやるから、今はとにかくおとなしくしていてくれ」

 諭すように魔理沙はフランドールに話しかける。
 しかし、フランドールは不満そうな表情を崩さない。
 
「……魔理沙この間もそう言ってたよ」
「え?」

 フランドールが口を尖らせる。
 
「この間もパチュリーに用があるって言って遊んでくれなかった」
「ち、ちょっと待て。この間っていつのことだ?私の記憶だと4日くらい前にお前につき
合ったはずなんだが」

 魔理沙が狼狽した声を出す。フランドールの記憶があやふやなのはいつものことだが、
今日はことさらそれに拍車をかけているらしい。自分に都合のいいようにしか物事を考え
ない辺り、レミリアとの血のつながりを思わせる。
 上目遣いで、フランドールが魔理沙を睨みつける。
 
「今日もまたパチュリーに用があるからって遊んでくれないの?」
「いやでも、パチュリーに用があるのは本当だし……」
「あー!またパチュリーって言ったー!」

 「パチュリー」という単語に反応して、フランドールは声を荒げた。
 
「いっつも魔理沙がここに来てるの知ってるんだからね!私が外に出ようとすると止めら
れるから我慢してるのに、魔理沙全然会いに来てくれないじゃない!」

 どうやら怒りのスイッチが入ってしまったようだ。フランドールは子供のわがままで魔
理沙を責める。

「そりゃ、私だって魔女やってるんだから魔道書は読みに来るって」

 だが、わがままゆえに純粋なその責言が苦しい。
 
「なんで私のところには来てくれないのよ!」
「本読みに来てるって言っただろ!パチュリーとはまあ、よく顔を合わせるから……!」

 そこまで言いかけて、魔理沙は口をつぐんだ。
 フランドールの目に涙が溜まっていたからだった。
 それを見て、魔理沙も自分が何を言ったかに気づいたのだろう。
 「本を読みに来ている」ということは、フランドールには初めから用がないということ
なのだ。

「うぅ〜……!」

 鼻をすすって、フランドールが唸る。嫌いと言われたわけではないのだが、それに等し
いことを宣言されたのだ。

「魔理沙の、ばかぁ……!」

 フランドールの目からぽろぽろと涙がこぼれる。既に小悪魔たちの横を通り過ぎて図書
館に入ろうとしていたパチュリーも、そこにとどまってその様子を見ていた。
 そして、フランドールの感情が爆発する。
 放たれた言葉は、その場にいた全員の予想を遥かに上回っていた。










「魔理沙は私とパチュリーとどっちが好きなのよー!!!」











 きっと魔理沙を睨むフランドール。予想もしていなかったことを言われうろたえる魔理
沙。なにやらどんどんと話がおかしな方向へ進んでいることに息を飲むその他ギャラリー。

「え、ええと……」

 しばし凍結したあと、すー、と魔理沙の目が泳ぐ。視線はあらぬ方向へ。普段の余裕た
っぷりな表情は一瞬で吹き飛び、暴れはせずともおおわらわ。後ろ姿からでも魔理沙が取
り乱しているのが分かった。

「どっち!?」

 ずいっとフランドールが1歩出る。魔理沙がそれに合わせて1歩下がる。フランドール
がさらにずかずかと前へ出るが、その分魔理沙も後ろに下がる。
 泣く子と地頭には勝てぬと言うが、目を真っ赤に腫らしたフランドールにはどうやって
も勝てそうもなかった。
 ここまで困り果てた魔理沙を見られるのも珍しいことだった。ただ、その内容が少々生
々しいだけで。

「ぅあ……!ええ、と……」

 魔理沙は変な唸り声を上げるだけでなかなか答えない。言葉を選んでいるのかもしれな
かったが、十中八九答えることができないのだろう。
 迷っているということは、それだけフランドールにとって辛い答えになるからだ。
 助けを求めるように魔理沙は小悪魔たちのほうを見る。その顔は泣き笑いに近かった。
しかし、そもそも手の出しようがないので誰も手を貸そうとはしない。咲夜も美鈴も生暖
かく魔理沙を見守っていた。

「そ、そうだな……」

 魔理沙はちらりとパチュリーのほうを見やった。会話は聞こえなくとも、先ほどのフラ
ンドールの声は聞こえていたのだろう。パチュリーは図書館の入り口からこちらへ戻って
くるところだった。

「……そ、そんな気にすることはないぜ?フラン」
「え?」

 数秒間天井を仰いで、魔理沙はフランドールに言った。かなりぎこちない笑顔を付け加
えて。

「私は、フランのことは好きだぜ」

 そう言って魔理沙は、フランドールの頭に手を乗せた。
 
「……ほんと?」

 怒りと涙がごちゃ混ぜになっていただけに、魔理沙の言葉を理解するのに時間がかかっ
ている。フランドールはきょとんとした表情で魔理沙を見つめていた。

「ほんとだって」

 魔理沙はにっと笑う。そうしてフランドールの頭をわしゃわしゃと撫でた。
 それで、フランドールも分かったらしい。
 
「……へへー」

 先ほどまでの涙など、けろっと忘れてフランドールは笑う。
 
「私も魔理沙のこと、大好きだよー!」

 その言葉を体で表すかのように、フランドールはもう1度魔理沙に吶喊する。近距離だ
ったために今度は魔理沙もちゃんと受け止めた。

「よしよし。それでだな、フラン。私もこれでちょっと忙しくてな。今日遊ぶのは勘弁し
てくれないか?」

 フランドールの機嫌があっという間に治ったのを見て、魔理沙がそう切り出した。しか
しもちろん、それでフランドールが納得するとは思っていないだろう。事実、フランドー
ルは百面相のように不満そうな表情になった。
 だから魔理沙は、フランドールが口を開く前に回避行動に出た。
 
「頼むぜ、な?」


 ――ちゅっ。


「あっ!!」

 ギャラリーの声が完全に重なる。
 魔理沙がフランドールにキスをしたのだ。
 キスといっても口ではない。おでこである。あまりの早業にフランドールは一瞬何が起
こったのか分からないようだった。自分の額に手を当てて魔理沙の顔を見る。

「……えへへっ」

 にぱっ、とフランドールが笑顔になる。今初めて、魔理沙が自分に何をしたか理解した
らしい。親愛の情を、分かりやすい形で自分に示してくれたことを。

「明日絶対遊んでやるから、今日はおとなしくしてくれな?」
「ん〜。絶対、だよ?」
「ああ」
「それなら、いいや」

 そしてもう1度花の咲いたような表情になるフランドール。ようやくそれで満足してく
れたらしい。魔理沙と指切りをすると、適当なところにいたメイドを捕まえて地下室に連
れて行くように言っていた。いまだに自分1人では帰り道も分からないらしい。

「……ふ〜っ!!」

 フランドールが廊下の角を曲がって見えなくなると、魔理沙は大きなため息をついて床
にへたり込んだ。

「つ……疲れた」

 再びため息。溜め込んでいたストレスを一気に吐き出すように。肩が凝ったと言いなが
ら、魔理沙は自分の肩を揉んで立ち上がった。

「いやあ大変だな、フランの相手も。やっぱり遊ぶのは明後日くらいにすればよかったか
な?」

 苦笑いをして魔理沙が戻ってきた。
 
「……ちょっと魔理沙、あなた本当に……?」

 その表情が普段のものとほとんど変わらないものだったため、思わず咲夜が声をかける。
 図書館での事態を考えたら、とてもパチュリーよりフランドールのほうが好きだとは思
えなかったからだ。まさか女同士の展開で二股などととんでもないことは、考えたくもな
い。

「え?ああ、嘘も方便て言うだろ?フランは怒らせると手がつけられないからさ。とりあ
えずってとこかな?」
「嘘……?」

 咲夜の問いに、魔理沙はあっさりと答えてしまった。全く少しも気にすることではない
とでも言うように。
 フランドールにおとなしく戻ってもらうためには、フランドールが満足する答えを出さ
なければならなかった。決して嫌いというわけではないのだろうが、しかしどう答えても
嘘になってしまう。だが正直に答えて暴れられるよりはましだと思ったのかもしれなかっ
た。それにしても、魔理沙の口調はさっぱりしすぎだったが。
 その言葉に最初に反応したのは、小悪魔たちのそばまで来ていたパチュリーだった。振
り返ってその表情を見ると、驚いているという風ではなかった。眉をひそめ、怪訝な表情
で魔理沙を見つめている。

「魔理沙、もしかして妹様を黙らせるためにあんなこと言ったっていうの?」

 パチュリーの声が刺々しくなる。もしかしなくても魔理沙はその通り言ったのだが、確
認も交えて、今度はパチュリーが魔理沙に詰め寄る。

「ああ。ああでもしないと機嫌治らなさそうだったから……」


 ――パァン。


 苦笑した魔理沙の頬に、平手打ちが1発入れられた。
 
「さいっ……てい!!」

 激昂した表情でパチュリーが罵倒したのと、走り去るのはほぼ一緒だった。
 
「あ!おいパチュリー!」
「今すぐ遊んであげたらいいじゃない!妹様のほうが好きなんでしょ!!」
「ま、待てって!」

 赤くなった頬を押さえて呆然としていた魔理沙だったが、走っていくパチュリーを見る
と慌てて追いかけた。魔理沙のほうが足が速いからすぐに追いついてしまったが、しかし
パチュリーは腕をつかまれる寸前、振り向きざまに妖弾を高速で撃ち出してきた。

「うわわっ!」

 魔理沙は床を蹴って飛び上がった。身をよじって射出される妖弾をかわす。足止め程度
の弾幕でしかなかったが、パチュリーにとっては足止めできるだけで十分である。魔理沙
が空中で弾幕をよけている間に、パチュリーは図書館の中に入ってしまった。扉の閉まる
音が廊下に響く。

「パチュリー、ちょっと待てって!」

 ようやく弾幕を抜けた魔理沙は、走るよりはずっと速く扉の前へと飛んでいった。
 
「パチュ……」
「妹様が好きなら私なんかには用はないでしょ!!帰ってよ!!」

 扉の向こうからパチュリーの怒声が聞こえてきた。
 
「だ、だからあれは……!」
「嘘だって言うならますます会いたくないわよ!妹様は本当に魔理沙のことが好きなんだ
からね!魔理沙はそれを裏切ってるのよ!!」

 弁解しようとする魔理沙に、パチュリーは扉越しにたたみかける。
 
「パチュリー!」
「帰ってよ!私はあんたなんか大っ嫌いよ!!」
「……!!」

 扉に手をかけようとして、魔理沙は硬直した。パチュリーの言葉が魔理沙に突き刺さる。

 責められても当然だった。ついさっきまで、魔法による効果とはいえパチュリーに好意
を寄せていたというのに、その相手の目の前で別の人物が好きだと言ってしまったのだ。
嘘だと言っても弁明の仕様がない。むしろ一層非難すべきところが増えるだけである。
 扉の前で、茫然自失として魔理沙はその奥を見つめていた。決して見えない、その中の
主の涙を。


「……ね、ねえ。これは……流石にまずいんじゃ……」

 しかしそれ以上に愕然としていたのが、ギャラリーの3人だった。美鈴がこわばった表
情で小悪魔に声をかける。

「2人の仲を後押ししようとして引き裂いたりなんかしたら、笑い話にもならないわよ?」

 扉の目に立ち尽くす魔理沙を見つめて、咲夜が言う。
 フランドールの乱入は予想外だった。絶妙のタイミングで入られたことも手痛いハプニ
ングではあったが、それ以上にフランドールの言動が完全に計画を壊してしまった。

「いえ……」

 一応まだ様子見のつもりではあった。魔理沙の気持ちを確認するだけで。結果、割合楽
に後押しできそうだったから試してみただけのことだったのだ。
 本当は成功するはずだった。成功させるつもりだった。
 それは、フランドールを原因に魔理沙自身によって挫折させられてしまった。
 一見すると、修復できそうもないような気がした。

 だがそんな状況になっても、小悪魔は不敵な笑みを作り出したのだった。
 
「いえ……。まだ大丈夫です。まだ望みはあります!」

 確信を持った声で小悪魔は宣言する。
 
「咲夜様、美鈴隊長。お願いがあります」

 1どころか、マイナス点から計画を練り直さなければならない。
 それでも、小悪魔には希望があった。

 こんな状況だからこそ、使える手段が存在しているのだった。
 


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