小  説

69-The Duper(告知)

Super Duper 普段は静寂に包まれている永遠亭だが、今現
在はおおわらわであった。永夜異変で勃発した
弾幕戦の被害が、永遠亭内の機能に大打撃を与
えたからである。あの事件から一ヶ月、いまだ
にその後遺症は残っており、また来るべき緊急
事態も顕在化してしまっていた。

「うぅ〜……」

 因幡てゐは卓子にかじりつき、数字の書き込
まれた冊子とにらめっこをしていた。それは永遠亭の帳簿である。前月の決算は永夜異変
の被害で大赤字である。その前月の被害額は今月分に持ち越され、さらに後始末にかかっ
た費用を追加し、またしても決算額の横に△をつけようとしているのだった。赤字なのは
割といつものことなのでそれほど気にしてはいないのだが、その数字が通常と比べると月
まで届きそうなくらいに跳ね上がっているために頭を抱えてしまうのである。てゐの口も
同じ形になるというものだった。

「てゐ様、失礼しますー」
「あー?」

 何度計算しても支出額は変わらない。てゐは苦虫を噛み潰したような表情だった。
 そこへ、他の妖怪兎たちが襖を開けて入ってきた。だいぶイライラしているために、て
ゐはつい威嚇するような声を出してしまう。

「え、えっと……農作物売ってきましたが……」
「い、一応全部売れましたよ?」

 てゐの様子に兎たちはそろってびびり出す。襖から半分顔を出しておずおずとてゐに報
告をした。今はその態度も何もかもが気に入らなくて、てゐは声を荒げた。

「じゃあとっとと収入渡しなさい! ヤな数字見て気が滅入ってるんだから!」
「は、はい!!」

 きしゃー、と兎らしからぬ勢いでてゐは命令する。兎たちは弾かれたように部屋の中に
入っててゐに袋を手渡した。そしてすぐにてゐの元から逃げ出す。

「じゃあ次は怪我兎たちの介護ね、よろしく」
「えぇーっ。今しがた帰ってきたばっかりなのに……」
「さっさと行く!!」
「はいっ!」

 ダンッ、と卓を乱暴に叩き、てゐは兎たちを追い払った。そして受け取った金額を確か
め始める。永遠亭ではそばに作られた、主に人参を栽培する畑の作物の余剰を人間に売っ
て金を稼いでいる。物々交換ももちろん可能だが、金にうるさいてゐが永遠亭内に貨幣経
済の流通を徹底させていた。

「……ん、値段ちょっと上げたけど大丈夫みたいね。でも大して上げてないしなあ、かと
いってこれ以上吊り上げると信用落とすし」

 収入をわきに置き、てゐはため息をつく。どんな商売でも信用第一だ。妖怪であるとい
う不利を払拭したのだから、ここで信用を失くすような真似はできないだろう。やはりこ
れだけでは今の大赤字に対応しきれなかった。

「うー。薬が自給できればもっと楽になるのに、こんなときに限って永琳様は新薬開発で
引きこもってるし……姫は当てにならないし。あの部屋とかにあるがらくた売っちゃおう
かしら。でも二束三文だろうし、今は市を開いてるところもないし……」

 卓に顎を乗せ、てゐはぶつぶつと唸る。
 永遠亭の住人構成は、七割程がただの兎と少し力を持った兎である。残りの三割が人間
型に変身できる兎と月人たちであった。通常てゐを含むその三割の人型妖怪兎が他の兎た
ちを世話しているのだが、永夜異変でそのほとんどが怪我をしてしまい、満足に動けない。
人間に作物を売ったり、そもそも畑を耕したりするのもその兎たちなので、少しでもその
数が減ると永遠亭の機能に大きな影響が出てしまうのだ。収入の激減+支出の激増。永遠
亭の構造的欠陥がここにあった。

「てゐー? ちょっといい?」

 てゐが帳簿を前に負のオーラを醸し出していると、再び襖が開いた。入ってきたのは第
三回永遠亭面白耳選手権優勝者の鈴仙・優曇華院・イナバだった。ちなみに第一回と第二
回も鈴仙のぶっちぎり優勝である。

「何?」

 イライラした表情を隠さず、てゐは応対する。流石に鈴仙は臆することなくてゐの前に
やってきた。

「あのさ、薬のストックが切れちゃったから薬草取って来たいんだけど、いいよね?」

 健常な兎の全てが駆り出されていることは鈴仙も身を持って知っている。ゆえになるべ
くならあまり出払わないでほしいのだが、永琳が兎たちに対して何もしない以上、薬を作
れるのはその弟子の鈴仙しかいなかった。

「う〜……まあいいか。すぐ行ってきてね」
「うん、なるべく早く戻るから」

 しばし迷うが、薬がないのでは仕方がない。てゐはOKを出した。
 
「じゃあついでに幻覚作用のあるやつも採ってきなよ。永琳様が要るって言ってたじゃな
い」
「ええ? ああいうのは基本的に薬草とは別の場所に生えてるから……」
「つべこべ言わずに、用があるならとっとと行く!」
「って、てゐが引き止めたんでしょー? もー、少しは落ち着きなさいよ」

 鈴仙は呆れながら部屋を出て行った。そしててゐは赤い帳簿と共に残される。
 
「……ふう」

 八方塞だった。これの原因はつまるところ労働力不足によるものであり、兎たちが怪我
をしていることなのだから、兎たちが快復すれば通常の収入は確保できるだろう。しかし
その間の損失が痛すぎるのだ。



「……やるっきゃないか」



 ぼそり、とてゐは呟く。
 今までもそうだった。もはや手段を選んでいられないのならば、てゐ自身がその損失分
を稼ぐしかないのである。

「んー、でもどうしようかな。半年前までやってたのじゃ、巫女が襲ってくるかもしれな
いし」

 ごろんと寝転んで、てゐは思案する。手段は存在するものの、その具体的な方法となる
と、ネタはそうそうそこらに転がっているわけではなかった。
 しかし――。







「さー、それじゃあ今度は『パニックブーム』でいくわよー!」
「ちょっと待ちなさいメルラン! まだ二曲目なのにそれは!」
「あ〜あ……飛ばしてるなあ、姉さん」







 しかし幸運にも、そのネタは今現在てゐの知らないところでおおわらわしていたのだっ
た。









「The Duper」

兎と「カモ」の戦いが、今始まる――。




紹介絵担当 みょんで  SS担当 天馬流星 ※写真はflickrから流星の父が。


戻る 告知へ戻る