小  説

87-4 雪夏塚〜セツゲツカ 二条院如月編_第1話(その4)

 槙人は屶瀬島に引っ越してから半月程だが、一度も島内で如月に会った事はなかった。
屶瀬島は小さな島なので、大抵近所の人とは顔を合わせる。だというのに、槙人は登下校
でも外で如月に会ったのは、これが初めてであった。

「島の、どの辺だ?」

 屋上での会話が本当ならば、如月の家は金持ちである。しかし、島の中で金持ちという
と、槙人は自分の住む姫崎家しか思い浮かばなかった。

「岩瀬神社だ」
「・・・神社。ああ。」

 屶瀬島の中央に位置する島にあるにしてはかなり大きな神社である。町内自治区の中心
でもある。

「なるほどなー。何か、納得いったよ」

 屶瀬神社を運営している人間は、神社の母屋に住んでいると綾華から聞いたことがある。
金持ちというのも納得がいく。何より、如月の「用紙や雰囲気は、「神」に関係するもの
には一番似合うと思った。

「じゃあ、如月も巫女さんの服着るのか?」
「当然だ」
「今度見に行っていいか?」

 瞬間的に、巫女装束を着た如月を想像するとわくわくして槙人は尋ねた。

「・・・見物料はとるぞ」
「おい」
「冗談だ
「真顔で言っても分かんねえよ」

 如月も冗談くらいは言うようだが、本気なのか冗談なのかは表情からでは全く判別がつ
かなかった。

「姫崎は・・・」
「うん?」

 そんな事は少しも意に介さず、今度は如月の方から話しかけてきた。

「家の近く・・・島の中に住んでるんだろう?」
「ああ」

 何が訊きたいのか分からず、槙人は素直に答えた。

「まあ、島の中ならどこでもお前の家の近くだろうけど」
「・・・そうだな」
「で?」
「・・・なのにどうして、原付が使えるのかと思ってな」

 槙人のスクーターを見ながら如月は言った。

「ああ、これか?」

 確かに、渚海学院では、自転車はともかく学校からかなりの距離がないとスクーターの
使用は許可されない。だが、槙人の家から学院までは1キロもないのだ。それでも槙人が
スクーターを使えるのは、学院の理事長が綾華方の叔父だからなのである。

「・・・まあ、金持ちの特権だな」

 如月のセリフを借りて、槙人は返した。

「・・・そうなのか」

 如月が笑ったように見えたのは、気のせいだったのだろう。

「乗ってくか?」
「遠慮する」

 申し出はあっさり断られた。乗りたくないのはなく、二人乗りが良くないからだと思っ
ているのだろう、ということにした。

(断筆)


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