小  説

81-6 雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編 第二話 雪景色(その6)

「綾華−。入るぞー」

 ノックをしてから、槙人はドアを開けた。

「あ、お兄ちゃん・・・」

 綾華は、半分布団に入ったまま、上半身だけ起こしていた。

「起きてたか?」
「今、起きた」
「そうか」

 槙人は机の前にあった椅子に腰掛けた。

「いなくなったと思ったら倒れてるんだからな。ビックリしたぞ」
「うん、ごめん・・・」
「町田さんが保護していなかったらどうなってたことか・・・」
「うん・・・。まっちーに会って話してたらお兄ちゃんとはぐれちゃったから、探してたんだけど・・・」

 まっちー、ていうのか、と槙人は呟いた。それにしても、結局はすれ違いだったらしい。

「結局、なんで倒れたんだ?」
「うーん・・・多分、人酔いじゃないかな」
「人酔い、ねえ・・・」

 確かに、結構な往来だったとは思う。綾華の体なら、仕方のない事なのかもしれなかった。

「あほう」

 しかし、槙人はあえて自分の感想をはっきり言った。

「な・・・!何よそれ−!」

 全く予想していなかった答えらしく、綾華は怒った声を出すしかできなかった。

「体が弱いんだから、人酔いで倒れる事くらい予想しとけ。そんなんで、よく行く気になったな」
「だってー・・・」
「だってじゃない。俺はお前じゃないんだ。お前の体調が良いかどうかなんて分からないんだよ」

 ぺしっと綾華の額を叩く。

「うー・・・」
「暫く寝てろ。昼メシは俺が作ってやるから」
「ええ?お兄ちゃんのごはん、おいしくないよ」
「てめえ・・・」
「私ならもう大丈夫だよ。私が作る」
「駄目だ」

 強く言い返すと、槙人は起きあがろうとする綾華をベッドに押し戻した。

「うわぅっ。何すんの」
「自分の体調管理もできないやつの言葉を信用できると思うのか。寝ろ」
「むー・・・」

 槙人に威圧され、しぶしぶ綾香はベッドに戻り、横になった。槙人はその綾香の額に手を乗せる。

「んー・・・熱はないな。でも一応薬飲んどくか。綾華、お前の常備薬どこだ?」

 綾華は専用の薬を持っている。朝夕食後に飲んでいるのを毎日見ている。

「大袈裟だよぉ」

 ふとんのなかで苦笑いする綾華。

「大事をとっているんだ」
「大事、とりすぎ・・・」
「仕方ないだろ。俺は病気持ちの誰かを看病した事なんてないんだ。勝手が分からないんだから、大袈裟くらいでちょうどいいんだよ」
「うーん・・・。でも、あれは今は関係ないよ。一階にビタミン剤あるから、適当なの持って来て」
「あいよ」

 一階に降りた槙人は、コップに水、そしてビタミン剤を用意してから綾華の部屋に戻った。それを綾華に飲ませる。

「とにかく、俺が気づけるようになるまでは、自己管理はちゃんとしてくれよ」
「うん。あ、ねえお兄ちゃん。私の服脱がせたの、お兄ちゃん?」

 綾華は自分のシャツをツンツンと引っ張って尋ねる。

「町田さんだ。ちゃんと礼言っとけよ」
「分かった。でも、お兄ちゃんなら、脱がされても良かったかな・・・なんて」

 じっと上目遣いで綾華が見つめる。槙人はもう一度綾華の額を叩いた。

「バカタレ」
「でもちょっとドキドキ?」
「するかっ」

 ツッコミ代わりに、再度綾華の額を叩く。

「うー・・・。でもありがとうね、お兄ちゃん」
「ん?」

 綾華が笑顔を作る。

「ちゃんと心配してくれてるんだ」
「当たり前だ。妹だからな」

 槙人は椅子から立ち上がった。

「しっかり寝てろよ」
「はーい」


まだまだ続くぜ!!


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