小  説

83-4 雪夏塚〜セツゲツカ 姫崎綾華編_第四話 マリンブルーの絆(その4)

 手早く綾華に洗い物を済まさせ、槙人はそこに掃除機をかけた。
 その後は大したトラブルもなく、槙人と綾華は無事に家事を終わらせた。

「それじゃ行こっか。さっきメール来たし」
「おう」

 海に泳ぎに行くというのに外は雪。上着の分だけ荷物が邪魔だった。

「ところで、どこかで待ち合わせしてるのか?」

 橋の上で暑苦しい上着を脱いで、槙人は綾華に訊いた。

「橋、渡りきったとこ」
「何人来るんだ?」
「さあ・・・まっちーとその友達が何人呼ぶかによるんだけど・・・」
「決めてないのかよ」
「私はまっちー決めただけだから・・・」

 綾華の言葉通り、町田達は橋のたもとで待っていた。

「おーい!」
「あ、綾華ー」

 気付いた町田が手を振る。

「あ、どうも姫崎さん」

 そして、槙人にお辞儀をした。

「よう、まっちー」
「うわーい、なんで知ってんですか、その呼び名!?」
「いや・・・綾華から聞いたんだが」
「うわー、やめて下さいよぉ!それ、綾華が勝手に言ってるだけですからぁ。定着なんか
してないですよ」
「あ、そうなのか?」

 集まったのは、槙人と綾華を含めて九人。本当に、槙人以外は全員女の子だった。橋か
ら春日浜までは、海沿いの道で徒歩十分といったところにある。浜自体が大して広くない
ため、結構混んで見える。槙人達はそれなりに空いた所にビーチパラソルを立てた。

「さァ行くぞー!」
「いやっほー!」

 パラソルの回りにドサドサと荷物を放り、何人かが勢いよく海へと駆け出した。
 服の下に水着を着ていたので、服まで脱ぎ捨てて行った。

「あーもー。片付けくらいしてよー」

 愚痴をこぼしながら、町田がそれを拾う。

「元気良いな」
「男の人が目の前にいるというのに・・・」

 町田は溜め息をついた。

「別に男目当てって訳でもないんだろ?」
「ええまあ、そうですけど・・・」
「それに俺だしな」

 大して顔も良くない男に好かれようとは思わないだろう。

「いや、それは別問題ですよ」
「そうか?」
「一般論として。それに、姫崎さんて結構カッコいいと思いますよ」

 ニッコリと町田は笑う。

「ん・・・そうか?」
「ええ。だって・・・」
「おっ兄ちゃん!」

その時、綾華が後ろから抱きついてきた。

「お・よ・ぎ・に・い・こー」

 そのまま、槙人にチョークスリーパーをかける。顔は笑っていたが、目が笑っていない。

「ぐええ・・・!あ、綾華・・・!入ってる・・・マジ入ってるって・・・!」

 意識が飛ぶ一歩手前で綾華は手を放した。槙人は激しく咳き込む。

「ね、早く」
「へいへい」
「ところでさ、これどう?」

 綾華も、服を脱いで水着になっていた。槙人の選んだ水着である。
(へえ・・・)

「おー、いいじゃない。可愛いね、その水着」
「えへへ。ありがと」

 綾華はその場でくるくると回ってみせた。

「どう?どう?お兄ちゃん」

 綾華は、槙人の顔を覗き込んだ。

「え?ああ・・・俺が選んだんだから良いに決まってるだろ。似合ってるよ」
「わーい!」
 
 だが、槙人は綾華の水着など見ていなかった。褒め言葉が出たのは、奇跡に近かった。
(結構、出るとこ出てるんだな・・・)
 綾華はなかなかに良いプロポーションをしていた。回りの女の子よりも割合胸は大きく、
スリーサイズのバランスも良かった。
 肌も白く綺麗で、日差しを反射していた。
 見ていて眩しい。
 綾華も女の子だということを、改めて認識させられた。

「さ、行こ」
「おう」

 しかし、あまりジロジロ見ていると何か言われるかも知れないので、程々にして槙人は
立ち上がった。
 海で泳ぐのも、七年ぶりだった。


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