作品番号53「雪が来る前に」をアップしました


今日は月命日。早くも34回目。月日の経つのは早いものだ。
東方創想話も残りあと、5作品を残すのみだ。

今回の作品は亡くなるほぼ1年前のもの。文章も大分うまくなった気がするが、死の孤独を予感させる作品だ。書き出しはこうだ。

はーっと、白い吐息が空気に溶けてゆく。
 秋も過ぎ去り、早朝には霜が降りる季節になった。このところはあまり日が差さず、白く厚い雲が空を覆うばかり。そのため、昼を過ぎてもなかなか気温は上がらなかった。
 もう少し厚着して来ればよかったかもしれない。鈴仙・優曇華院・イナバは両手を首に押し当てて暖めながらそう思った。上はともかく、脚が寒い。サイ・ハイソックスを履いてはいるが、丈の短いスカートとの間に空く僅かなスキマに風が当たるのだ。なぜか短いスカートしか用意してくれない師匠に、ちょっとだけ恨みを覚える。

「雪が降るかもしれませんね」

 空を見上げ、鈴仙は呟く。気温も落ち込んでいるし、雲がやや厚ぼったい。この寒さならば雪になる可能性はあった。
 寒いとはいっても、鈴仙は別段冬は嫌いではない。それは、雪が降るからだった。
 どちらかというと雪の白は好きだ。その純白の粒子は穢れを感じさせない。鈴仙は過去の記憶のせいで度々自分の心が薄汚れていると感じるので、まさに「何もない」景色というものがひどく美しく見えるのだ。憧れに近いかもしれない。降り積もった新雪が日の光
に照らされて輝く様は、直視できないほど美しいから。
 だから冬は嫌いではない。いつかのように呆れるほど降られると美しさも何もあったものではないが、例年の降雪は鈴仙にとってはむしろ楽しみなのだ。

この作品は珍しく、終わりにこんな作者のメッセージが残っている。そして、天馬流星名ではなく、「にごり酒クリーム」というハンドル名で書いている。これは何を暗示しているのだろうか。

■作者からのメッセージ
寒空の下で独り震えていた彼女に、家族という名の屋根を――

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